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愛媛大学大学院 生産環境工学専攻
流体工学研究室




複雑流体とは何か

 複雑流体(complex fluid)は,端的に言えば,流体内部に何らかの構造を持っている流体のことです. 流体が内部構造を持つというのは奇異に聞こえるかもしれません. 一般の流体力学が取り扱う対象は主として水や空気であり,同じ仲間の流体としてオイルやハチミツ,水飴など,高粘度のものもたくさんあります. これらの流体は粘度の大きさはまちまちですが,ニュートン流体の特性を示すいわば同じ部類の流体で,いずれもニュートンの粘性法則に従うのでニュートン流体(Newtonian Fluid)と呼ばれています. しかし複雑流体はその内部構造のためニュートン流体の流動特性を示さず,水や空気とはたいへん異なる流動を示します. その例を見てみましょう.

  写真はいずれも直径の大きなパイプから小さなパイプへと流体が流れ込むときの急縮小流れの様子を写真撮影したものです(流れは上から下). 左側の写真は複雑流体の流れであり,右側の写真はニュートン流体の流れです. いずれも非常にゆっくりした流れです. 複雑流体の場合,急縮小部に大きな循環流れ(渦状の流れ)が生じていますが,ニュートン流体の場合はそれがたいへん小さくなっており,ほとんどわかりません. このように両者の流れには大きな違いのあることが見てわかります.

  ニュートン流体でない流体を非ニュートン流体(Non-Newtonian fluid)と呼んで区別します. しかし,「非」という接頭語がよくないイメージを持っていることから,昨今では複雑流体と呼ぶことが多くなりました. なぜ「複雑」と呼ばれるのかについて説明しましょう.


 空気や水の分子は,空気の主成分である窒素分子N2であれ,水分子H2Oであれ,ほぼ球形をしています. しかし,我々がターゲットとしている流体は,高分子流体や液晶などの巨大分子を含んだいわゆるソフトマテリアル(またはソフトマター)と呼ばれる物質であったり, ナノファイバーやカーボンナノチューブなど繊維状の粒子が流体に分散した流体,いわゆる繊維分散流体であったりします. いずれの流体も,球状ではない形状の物体(非球形状の分子や粒子),たいていは紐状や棒状の分子や粒子が液体中に含まれているという特徴があります.

 そのため,これらの分子や非球形状粒子がそれぞれ互いにからまりあったり干渉しあったりして,流体中に網目のような構造が形成されています. たとえて言えば,スケールはぜんぜん違いますが,毛糸の毛玉が水に分散してからまり合っている様子を思い浮かべてください. あるいは剛直な骨格をもつ高分子や液晶分子,棒状粒子の分散流体であれば,縫い針が多数集まってからまった状態を思い浮かべてください. いずれも立体的な網目のような構造ができあがっていることに気付くでしょう.

 このようなミクロな構造のせいで,この流体が流れるときの流れ方も水や空気とはまったく違ったものになります. このような流体は複雑な内部構造を有しており,複雑な流動を示すので複雑流体と呼ばれています.

複雑流体のおもしろい流動

  小中学校ではスライムと称して,理科の実験で作成することもあるでしょう. おもしろい流動というのは,水や空気と違って意外な運動をするという意味ですが,なぜこのような流動を示すのでしょうか. おもしろい流動を示すので,動画サイトのYoutubeでもいろいろな実験の映像が投稿されています. 身近な例では,納豆やオクラ,ウナギのネバネバがあります。唾液も糸を引くことからわかるように複雑流体です.